短編小説、ロライマ 2/7

先は長い

初日、8時半に旅行代理店のオフィスに集合。定刻に来たのは僕とカナダ人のスティーブという30代の男と、デンマーク人のマイコという50代のオヤジ。9時ごろにアルゼンチン人の若い夫婦がやってきて、10時ごろにようやく最後の一組、スペイン人の男二人、ルイス、リカルドが到着した。なんの謝りも無しに。まあ、これがメダトレイニアンの時間感覚なのかと思いながら。
そうして、最初の場所へ、ランクルで行く事から始まった。最初のポイントへ着いたのは昼頃。そこでランチを頂き、トレッキングは始まった。僕の荷物は、防寒具と、合羽、寝袋、スリーピングマット、あと、いくらかの間食用のお菓子。それと2台の一眼レフなど。テントはガイドのロジャーが運んでくれる事になったので、僕の荷物は大して重くはなかった。決して軽いとは思えなかったけれど。
初日はロライマ山を目指して、いくつもの丘を越えるハイキング。山登りと言うものではなかった。しかしながら、丘を越えるのにはそれ相応の労力を要するし、照りつける太陽は半端なものではなかった。開始30分ですでに僕は後悔していた。なんで、金を払ってまでこんなしんどい事をしているのかと・・・
しかしながら、1時間も歩くと、歩くことは特に苦でもなくなり、のんびりと自分のペースで歩ける草原は心地良いものだった。出来る限り軽くしたバックパックも、いつまで持っていてもそこまでしんどいものでもなかった。少し遠くに見えるロライマ山を眺めながら、「なんちゅう変な形の山や」などと考えていた。スペイン人のルイスは学生時代はバイオロジーを勉強していた翻訳家。虫や花が僕より好きな様で、何回も立ち止まってマクロ撮影を試みてた。途中で、大きなトカゲを見つけたり、葉切り蟻の行列を二人で眺めたりしてた。葉切り蟻は南米ではごく普通に生息している蟻のようで、葉っぱを切り取って巣に持ち帰り、それを苗床にしてきのこを栽培して食べていると言う農耕な奴らだったと記憶している。
二本の河を裸足になって越えて、夕方頃、最初のキャンプに到着。今日のシャワーは河。石鹸も無しに水浴びをしながら河で体を洗う。特に見えるロライマ山を眺めながらのそれは、なかなか良いものだった。ただ、この近辺、特に河の近くにはプイプイと呼ばれる小さな蝿のようなものが多数生息していて、こらがまた蚊のように刺してくるのである。正確には噛んでくるのだが、奴らに噛まれた後は、少し出血し、結構な痒みが後からやってくる。なんとも鬱陶しい奴らだ。ただ、彼らのまマシなところは、日没後はほとんど活動しないと言うこと。日没後は蚊もいないので、中々快適だった事を記憶している。
夕暮れ時の奇麗な色の中にそびえるロライマ山は、日没後、満月に照らされて不気味に浮かび上がっていた。
そして、ガイドのロジャーがつくってくれたご飯を頂き就寝。自分のテントは、カナダ人とデンマーク人と3人でひとつ。ただそのテントはそれほど大きくもなく、3人で寝るには少し窮屈だった。それに耐えかねたカナダ人が外で寝ると言いだし、僕はデンマーク人のオヤジと二人でテントの中で夜を過ごした。彼のいびきはなんともいえない騒音で、さらには時々狭いテントのなかで寝ながら寝屁をかますしまつ。彼の故意ではないのだろうが、なんとも不快な夜だった。それでも、僕は初日、疲れていたので、深い眠りに着いたのだった。