短編小説、ロライマ 1/7

ロライマ山

ブラジルのマナウスからバスを乗り継いで着いた先はベネズエラ。ついに来た。南米最後の国に着いた僕。町の名前はサンタエレナデヴァイレン。この町に来た理由は他でもなく、ロライマ山で6日間のトレッキングに挑戦するため。でも、実はそれを決めたのはほんの一週間前の事。全ては、リオで出会った、日本人旅行者の話だった。
これからの旅の予定を彼と話す中で、「アマゾン河を6日かけて移動するのが楽しみなんです」という僕に対して、突っかかってきた彼。「6日間もボロボロの安宿みたいなボートでハンモックに揺られながら毎日河を見て何が楽しいわけ?飛行機で飛べば良いじゃん。」でも、僕は反論する。僕は、アマゾン河に強い思い入れを持っていたから。でも、彼の次の一言が僕の旅の方向を一気に変えた。「その時間を飛行機で短縮して、ロライマ山でも登れば良いじゃない。南米のハイライトだぜ、ボリビアのウユニ塩湖と、アルゼンチンの氷河と、ベネズエラのロライマ山。ベネズエラまで行って、ロライマ山にいかなくてどうするの。」
”南米のハイライト”その言葉が僕の心を大きく動かした。確かに、その人の言い分も一理ある。船に揺られてのんびりと6日間過ごすよりは、6日間かけて山に登る方が面白そうな気がする。それに、僕は、今までの旅のなかで日帰りのトレッキングはしたことがあっても、6日間と言う長い期間でのトレッキングはしたことがなかった。最後の旅行でのイベントとして、それは相応しいものであると僕は思った。決して楽ではなさそうなこのイベント、これを僕の旅行人としての人生の卒業試験にしようと僕は思ったのだ。
旅行中、次の行き先を人の意見に流されて決めることは多々ある。これもそのひとつ。リオでその人と話した次の日には、僕がすでに買っていたベレン行きのバスのチケットを払い戻し、その足で旅行代理店へ赴き、リオからマナウスまでの航空券を僕は買っていた。思いたったが吉日。行動は迅速な方がいい。
実は前から、ロライマ山はじめ、ベネズエラのテーブルマウンテンには興味があった。テーブルマウンテンとは、切り立った崖の上に存在するひらべったい柱状の山の事だ。何故、興味があったかと言うことだが、以下のような話を黄色い本で読んだ事による。
その昔、大昔、大陸はひとつで、それはパンゲアと後の呼ばれた。そして、パンゲアは、いつしか分かれ、ユーラシア大陸やアメリカ大陸となる。その分かれる軸となった部分が他ならぬベネズエラのロライマ山のあるギアナ高地であり、ロライマ山の地質は20億年前のものだと言う。テーブルマウンテンの上の大地は絶壁に囲まれているため外部からは隔離された環境を維持し、さらには太古の気候をそのまま受け継ぎ、陸の孤島として、太古の環境を今なお持っていると言う。
その話を聞いた時、なんて素敵なところだろうと、僕は思ったものだ。もし、この世の中で、恐竜にあえる所があるとしたら、それはギアナ高地であると僕は変な幻想さえ抱いていた。ギアナ高地には、ロライマ山以外にも世界最高の落差を誇る滝、エンジェルフォールなどがあり、僕はそこを訪れるだけで十分だと思っていた。そう、リオで、その人に会うまでは。
とにかく、僕はロライマ山をトレッキングで訪れる事に決めた。そして、このサンタエレナデヴァイレンという寂れた国境付近の町に訪れたのだ。運の良い事に、その日、旅行代理店を訪れたところ、翌日、ロライマ山へのトレッキングは可能だと言う。僕はすぐにそれに申し込んだ。結構な時間の値切り交渉の後でだが。
ともかく、そうして始まったのだ。僕の今までの旅行の卒業検定、ロライマ山のトレッキングは。