Machynllethでの妄想

「この店で一番安いビールを一番でかいグラスでおくれよ」

彼は、カウンター越しにそう言った。
一杯のビールは彼を幸福にする。彼はただ、世界が流れていく様子を、人々が笑っているところを眺めていたいだけ。別にそれがどんな街であろうと関係ない。
おんぼろピアノにのって流れるジャズの音とトランペットやウッドベースの音、ジュークボックスが流す三十年前の音、まるでふとした瞬間にラジオが流した大好きな歌。なんだって構わない、素敵な音楽とそこにグラス一杯のビールがあればそれで構わない。
古いパブでは地元の人たちがプールを楽しむ。赤色と黄色のそれは彼にはとても安っぽく見えるけれど。腕に刺青を入れたこのパブのオーナーは時々、気持ちのいい笑顔を見せる。そのパブの二階は昔から安宿になっていて、バスルームはほとんど壊れかけているけど、そこからの眺めは最高だった。

彼はどんな街の道でも同じように歩く。初めての道を歩くときは、まるで好奇心の塊のような子どものように、次にその道を歩くときは通いなれたいつもの道を歩くように。それがどこの街であろうと関係ない。少し背中を丸めて、両手はつっぱった彼のズボンかジャンパーに突っ込んで。

小さな街。街の北にある小高い丘の上からはこの街全体が見渡せる。彼は時々そこからこの街を眺める。スレートの瓦礫の山と、羊たちが戯れる草原、ケルティックの十字架が並ぶセメタリー、古い灰色の教会、そしてこの街のシンボルの時計台。なだらかな草原と林の谷間にある街。彼が気に入った街。