バックパッカー。

ロンリープラネット、というガイドブックがある。世界中でバックパッカーをはじめとする旅行者に支持されている本である。日本でいうところの「地球の歩き方」である。そして、沢山あるシリーズのひとつの表紙には、「Go further, stay longer, pay less」と書いてある。つまり、「遠く、長く、安く」これがこの本の売り文句であり、同時にバックパッカーが求めるのもであると思っていいということだろう。
安さの美学というものがバックパッカーにはあると僕は思う。同じルートの移動をした人でも、より安く移動したほうがかっこいいのだ。長距離、長期間の旅行をしている人のほうがかっこいいのだ。賢く安く旅行をしている人は旅行者としてかっこいいのである。
それに「3日間、20万円でパリ豪遊してムーランルージュが良かったとか、高級ホテルでおフランス料理がおいしかったオペラ座がどうこう…」という話よりも、「インドからパキスタンとアフガニスタンとイランを抜けてトルコまで行ったよ。20万円で半年過ごして時には野宿もしちゃったよ。現地の人の家にも泊めてもらったよ。」という話のほうがかっこよくて、うらやましいのである。(まあ、どっちもうらやましいが)

そして、その延長なのか同じことなのか、そういう旅行者は人があまり行かないところや、時としては危険なところに行くことがかっこいいことになり、やりたいことになるのだ。そして今は、行こうと思えば誰でも、どこにでもいける時代になっていると思う。例えそこが素人のバックパッカーなんかがふらっと行くようなところでもなくても。そして、そうして死んでしまった若者も少なからずいると聞く。しかし、事前にその地域の知識を蓄え、ベテラン旅行者や、現地の人たちのアドバイスに従っていれば、そうそう最悪のことにはならない。しかし、それが出来ていない若者が最近多いと聞く。無難なことばかりではつまらないからであろうか。

そして、あの人も、そんな現代のバックパッカー像の延長上にいた人ではないかと思う。情報収集不足という言葉は否定しきれない感じはするけれど、あの人の気持ちはわからなくもない。だって、もし、あの人が多少危険な目にあったくらいで、そんな事件もなく、無事にあそこから帰ってきていたら、ほかの多くの冒険にあこがれるバックパッカーは心の中で少なからずうらやましがるからだ。

本当に信じられないのは、あの人の家にわざわざ中傷の電話をかける連中や、彼のことを面白がったり死を望んだりしている連中のほうだ。家族の人だって、非難されることも覚悟でマスコミに顔を出している。その気持ちの裏にある家族愛を誰が否定できるだろう。あの人のすべては肯定できないし、多くの人に迷惑をかけたり、税金が使われたりしているということもあるかもしれない。しかし、命を軽く見ることの出来る人のほうがどれだけ非常識だろう。
今のイラクでは、あの人一人が殺された人間じゃない。いくつか誤報があったように、日常的に人が殺されている現実が今のイラクにはある。ここ最近のうごきで殺されたイラクの民間人は10万人近いという話も聞いた。本当に非難するべき事はそこではないかと思う。
僕は殺された人が最初、日本人ではなかったと聞いたとき、正直少しほっとした。けれど、そこで誰かが殺されていたことに変わりはないのである。その人の家族はきっと同じくらいに悲しかったのだろう。

僕もここ数日間でいろいろ考えたけれど、やっぱりどんな形にしても理不尽に人の命は失われてほしくないものだと思う。そういうことが当たり前であると思ってしまう現実や、国内外問わず、色んな事情でそういった地域があることに対して、何かしら動くことが大事なのだと思う。自分のできる範囲で。人に迷惑をかけない範囲で。

そんなことを考えながら、最近、僕は個人的にお金が必要なので相変わらずバイトばかりしているが。